クトゥルフにおける、BRPとD20の能力値対照 

 過日のゴールデンウィークに、仲間内でいわゆるゲーム合宿をした。1人が途中で離脱するので、それに合わせて皆でファミレスに行って食事をしながらクトゥルフセッションの感想戦の続きなどしたわけだが、その中で、まあ「まあそこはクトゥルフのシステム上しょうがないよね」とかそんなトークになった。

 その流れ上、1人からこんな台詞が飛び出した。「クトゥルフD20とか使ってみればいいんじゃないか」、と。まったく思考の死角を突かれた思いをし、なるほど、その手があったか!と感銘を受けたものである。で、その場での話の一角に、「でもやっぱ、POWがないのはなーw」「入れちゃおうぜ」「CHAを分解するのがD&D的っぽいかな」みたいなものがあった。

 クトゥルフのロマンとして確かにPOWが欲しいとは私も思う。ここは一つ「クトゥルフのためのD20カスタム」を考えてみようとしばらく前に思い、とりあえず両システムにおける精神系能力値について行なってみた整理が以下である。




◆ D&D

INT:自らの精神内を秩序立てる能力。論理的な思考や知識・経験の貯蔵。
WIS:精神を外界に接続し「気を配る」力。直観的判断や洞察。また意志の強さ。
CHA:他者を惹き、心神に訴える力。かつそれ以上の何か。存在そのものの強さ。

◆ クトゥルフ

INT:論理的な思考をする能力であり、直観的な判断、洞察力にも関わる。
EDU:知識・経験の貯蔵。また、それを裏付ける教育の経歴。
APP:他者を惹き、心神に訴える外面のよさ。
POW:意志の強さ。であり、かつ何かそれ以上のもの。存在そのものの強さ。

◆ 要素分解

A:論理思考
B:知識貯蔵
C:直観的洞察力
D:魅力
E:意志力
F:根源的パワー

・D&D

INT:A+B
WIS:C+E
CHA:D+F

・クトゥルフ

INT:A+C
EDU:B
APP:D-
POW:E+F






◆ 各値寸評


 D&DのINT、Intelligenceは、主に知識や経験貯蔵に関わっている。ルルブの記述という点で言えばやはり、論理思考の能力が第一に挙がるわけだけど、やはりRPGというゲームの形態上、「思考」はPLのものがメインリィに使われるため、能力値としてこの点が実際にフィーチャーされることは少ないと言える。思考と交渉がPLの専権となる傾向は、やはり言語ゲームらしい性質と言うべきだろう。知力というものを表す要素としては、ウィザード等の秘術呪文への熟練度の他だと、やはり技能ポイントの存在が大なるところである。知識系、技術系の技能のベースにもなり、概ね、知識や経験を裏付ける能力だと言える。

 WIS、Wisdomは、知覚や直観に関わっている。ルルブの記述という話で言えば「Will Power」というのが一番冒頭に来るわけだが、はっきり意志の力って感じがする関連タームは意志セーブくらいな気がする。信仰呪文への熟練にも関わるけど、それが「意志の強さ」の反映かというと、また微妙ではなかろうか。これは「判断力」という訳語のせいかもしれないが……とは言え、意志の力の強さって言われると、ソーサラーを連想してしまう。ウィザードの呪文もそうだが……知性で以て法則を従えますみたいな。結局、何か高次のものの力をチャンネルしてるという構図なわけなので、あまり当人の意志の力みたいなイメージがピッタリ嵌まらないのだ。まあ意志セーブがある以上は意志の力で全然いいのだが、その他、〈聞き耳〉〈視認〉〈真意看破〉といった技能のベースという面も大きい。〈生存〉もあるし。そもそも英語WisdomにWill Powerがそぐわないという話も……w

 次のCHA、Charismaは、Wisdomにおける直観と意志力よりも激しい分裂傾向を孕んでいると言える。もちろん何か超常性・神秘性を帯びたカリスマ、で統合されているわけでもあるが、メタレイヤーのそのまたメタな結合なわけで、変装術とワイトやらのエナジードレインの間の距離はやはり大きいと言わざるをえないだろう。もちろんWotCもその辺は認識しているわけで、どこでか忘れたのでアレなのだが、気になるならサブ能力値としてAPP(アピアランス)とその辺の超常的パワーを分ければどうですかみたいなガイダンスがどこかで為されていた気がする。さておき、この能力値Charismaは、「魅力」という訳語に相応しい交渉系技能のベースでありかつ、〈魔法装置使用〉やソーサラーの魔力、その他、様々な種族の生得的超常的能力の力の強さの基盤になるなどといった、はっきりと名状し難い、存在の力そのものの強さというようなものも表しているわけである。


 クトゥルフのINT、Intelligenceは、D&Dと同じく論理思考の力を指すわけでもあるが、D&Dのそれと同様に、明示的にこれがフィーチャーされることはあまりない。D&DのIntelligenceと異なる点は、これがD&DのWisdomのような、直観的な判断力、洞察力をカバーしているという点である。データとして言えば、「個人的趣味の分野」の技能ポイント、そしてアイデアロールの数値に関わる。アイデアロールはまさに「直観的な判断、洞察」を出力する数値系である。この技能ポイントももちろんD&Dの技能ポイントのような見方をすることもできるのだが、そういった面は大体Educationに移管されていると言える。

 そのEDU、Educationであるが、これははっきりと知識貯蔵を表す能力値である。ちゃんとした学習・訓練を技能ポイントとして換算するのがこの能力値であり、実際、クトゥルフのキャラクターの性能の大部分がこの数値で決まると言ってもよい(残りの大部分は、SANの基準値となるPOWだろう)。一応、受けてきた教育の経歴もこの数値から出されることになっているのだが(最低値が6だが、これで小学校の6年間)、優秀な部族的戦士になるためにも当然ながらこのEDUの高さが必要である。技能ポイントの他には、知識ロールの数値の基準にもなる。「一般的な話、何を知っているか」を端的に出力してくれる数値系である。INTが知能の動的な面なら、EDUは知能の静的な分野を表すと言えるだろう。

 APP、Appearance。読んで字の通り、外見の良さのこと。ルールブックにも、これはあくまでも外面のよさだと明記されている。内面性、人間的魅力、カリスマ性と言ったものはプレイヤーのロールプレイの管轄だから、と。実際のプレイでも、数値を参考にして顔の良さを判断してみたりするのがメインで、メカニズムとして動的に使用することはあまりないのではないか。もちろん、初対面時や社交上の反応をランダムで決める時には役に立つが。

 最後にPOW、Powerだが、これもまず、Force of Willだと最初に書かれている。メカニズムとして言えば、まず、人間としての耐久力であるSAN、正気度の基準値になるのがこのPOWだ。人間としての正気の度合いを保つために意志の力というわけである。その他、様々な魔術的能力にも関わるし、ルーンクエストを引き継いで、何かしらに超常的な意味で捧げたり込めたりするのにも使われる。また、幸運ロールの基準値にもなっている。人間の意志が強ければ幸運すら引き寄せることができる、と言うのもいいが、その時点で既に何か超常的な世界に発想を踏み込ませているように思われるのだがどうか。






 ところで、整理したはいいのだが、だからどうしようという具体的なところにはまだ踏み込んでいない。というのは、「POWを入れるとして、SANの基準値がPOWであってほしいか」という話を仲魔としてないからである(クトゥルフD20では、SANの基準能力値は判断力)。分解した能力値をどのような形で再編するかによって、技能とか諸々の関連領域にも影響が出るので、その戦略が定まっていない間はこうしたらああしようかなみたいな夢想を時々しているだけっていう。まあおいおい話したいなと思いつつ放置中。


 改造の計画としては、実はD20をD100化計画とかもあったりする。きっかけは件の日に仲魔がしていた、「でも、いつも(D&D4thのオンセで)D20ばっかり振ってるのに、たまのクトゥルフにまでD20ってどうよ」「たしかに、D100ってそれ自体になんか魅力あるよね」という、基礎ダイスロールの新鮮さという話。まあ技能のランクか技能ポイントを5倍に計算すればとりあえず単純にD100で扱えるが、「毎回の判定で、二桁+D100っていう計算はどうなんだ」と思ったりして迷う。下方ロールだからこそのD100ってのはありますよね。まあロールマスターとかありますけどね。

 一応これには、クトゥルフD20が持っている正気度上限についての問題を解決できるという副次的効果があったりする。クトゥルフD20の正気度・狂気回りのシステムはほぼクトゥルフで、正気度が0~100なら振るダイスもD100なのだが、肝心の〈クトゥルフ神話〉技能はD&Dの技能メカニズムの基準に乗っけられているので、極まってもまあ2、30ランクくらいまでしか行かないのである。その一方で、正気度上限はクトゥルフBRPのままの「99-〈クトゥルフ神話〉」なので、ここは大分格差が生じている。ダイスがD100になってしまえば、〈クトゥルフ神話〉についてだけクトゥルフBRPのノリで数値を扱ってしまえる(元々D20でも、〈クトゥルフ神話〉だけ基準能力値なし、ランク上限と無関係など、特殊な扱いをされている)。


 まあ、久しぶりの更新になったが、そんなことを時々考えてみてますよって程度のお話。
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コメント

このお題で『「LUC」と「APP」しか能力値が無いRPG』の話題が出ないというのも凄いね。

まあ、お題はあくまでもクトゥルフBRPとクトゥルフD20の対照ですので……

しかし『「LUC」と「APP」しか能力値が無いRPG』とは、ちょっと思い当たるタイトルが出てきませんが、プアープレイの対極にありそうなゲームですねw

『クロちゃんのRPG見聞録』だったか『クロちゃんのRPG千夜一夜』だったかに登場するネタであり、その回の主題は能力値の意味を解析するというものなの。

先行研究は大事に。

昔のD&Dに、
クトゥルフ神話の邪神が出てきたような、、

昔のD&Dというのは「SF・ファンタジィ」ネタを節操なく借用して詰め込んでいますからね。

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