宗教学文献紹介
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友人の知り合いの知り合いという、距離3の間隔を介したルートで以下のように本の紹介を頼まれた。
1.体系的に書かれた宗教学の本で、
宗教学科の大学院前後のレベルで教科書的なもの
2.宗教社会学の本
3.宗教同士の関係、時代背景、形而学をメタに哲学する本
私が件の人物について知っていることは哲学科の人間で、宗教に関しては初学者ということだけであるので、バーッと関連書を多数並べられても困るだろうから(だから教科書的な本を探しているのだろうし)、それらしいものを各数冊に抑えて紹介してみることにする。
なお当然だが、真面目に時間をかけてこの学問を勉強しようという人は、こんなブログではなくまず入門書でも買って、そこにあるだろう「文献紹介」を読むべきである。
差し当たってはまず、リストアップしたものを並べておく。アマゾンとかへのリンクも張っておいたが、まあ高いものも多いので(3千円くらいの単行本が主だと思うが)、図書館のOPACにでも放り込むのがいいだろう。( → )というのは、後述するコメント部へのリンクである。
○ 宗教学の教科書的な本
小口・堀(監修)『宗教学辞典』東大出版会( → )
棚次・山中(編)『宗教学入門』ミネルヴァ書房( → )
キッペンベルク『宗教史の発見』月本・渡辺(訳)、岩波書店( → )
Segal(主編), "The Blackwell Companion to the Study of Religion", Wiley-Blackwell( → )
○ 宗教社会学の本
ヴェーバー『宗教社会学論選』大塚・生松(編訳)、みすず書房( → )
デュルケム『デュルケーム宗教社会学論集』小関(編訳)、行路社( → )
ベラー『徳川時代の宗教』池田(訳)、岩波書店( → )
伊藤・樫尾・弓山『スピリチュアリティの社会学』世界思想社( → )
○ その他
宮本・大貫・山本『聖書の言語を超えて』東大出版会( → )
保坂『インド仏教はなぜ亡んだのか』北樹出版( → )
オットー『聖なるもの』華園(訳)、創元社( → )
エリアーデ『聖と俗』風間(訳)、法政大学出版局( → )
エリアーデ『世界宗教史』松村(訳)、筑摩書房( → )
梅棹・中牧(編)『宗教の比較文明学』春秋社( → )
実はこの照会が来る前に同じルートで
・数学科のi君のご友人で、哲学をマジメに勉強している人らしい。
・「宗教学の学生が院に行くとき勉強に通り一遍は読む本」
・代表的な現代宗教およびその歴史を取り扱っている
・1、2冊程度でまとまっている
・どちらかというと洋書がいい
・大学教授など、権威ある著者が望ましい
・以上の要件を満たす著作、ないし著作候補を教えてほしいとさ
・シリーズモノはちょっと、って言ってたよ
という質問が回されたことがあった。
実際のところ、文面通りの質問に誠実に答えたら「代表的な現代宗教およびその歴史を取り扱っている宗教学の院に入る前後に通り一遍は読む(単行)本、なんてものはないよ」となるのだが、誠実かもしれないが適切ではなかろうので、「代表的な宗教の概要と歴史がよく分かるまとまった準専門書教えてよ」という質問だと解釈して返答した。その折の話が無論今回に反映されてもいる。
一応その時の回答としては、ミネルヴァ書房から出ている『宗教学入門』という本が、最初の方でまず諸宗教の概要を各分野の専門家に書かせるというスタイルで編まれているので、「まずはこの入門書でも読むといい」というのと、あと「総合的・世界的な宗教史学の大家」って多分未だにエリアーデという話があるので、「各個別宗教研究は学科レベルに分離してたりはすると言っても言い過ぎでないが、そこを総合的な宗教史学としてまとめ挙げようとした流れの大家はいまだエリアーデである」という感じでエリアーデ(と弟子)の『世界宗教史』を挙げておいた。
(実は、世界宗教史は分厚いハードカバーで3巻+1巻の実に4冊 ― この+1というのは、エリアーデは3巻を出して亡くなったので「その後、現代まで」というような巻を弟子達が1冊書いたもの ― 文庫でも出ているらしいが、ちくま学術のクォリティで全8冊ときている。「シリーズものはちょっと」に引っかかるんじゃねというツッコミを受けたので、例の入門書を挙げたという次第)
以下、各項目について云々とコメントをつけたりしていくが、必ずしも文量=その本のお勧め度というわけではないので悪しからず。
1.体系的に書かれた宗教学の本で、
宗教学科の大学院前後のレベルで教科書的なもの
まず言っておかなくてはならないのは、「宗教学の体系」という言葉は、「哲学一般の体系」であるとかいう言葉を発するに等しいということだ(この哲学という言葉は、思想研究の学としての意味を含む)。宗教学というのは根本的には「宗教なるものを対象にとる諸学」であり、あらゆるアプローチが為されうる。ある一つの宗教現象を、一個の体系として見たとして、宗教学の体系というのは、その一個の体系を包括する体系のそのまた一個上の体系とでも言うべきものである。ぶっちゃけて言えば、そんな体系を築き上げることこそが宗教学の目的なので、申し訳ないがそれはまだ求めないでほしいということだ。
(まあ、「体系的に書かれた」程度の表現だから、「雑多な感のない/物語叙述的でない」程度のニュアンスなのだろうとは思うけれども)
○ 小口・堀『宗教学辞典』
さておき、少なくともウチについて言えばそのような教科書はないということでいいとは思うが、教科書的なものになり得るということで先生方が認識していると思われる書籍として、まず『宗教学辞典』を挙げておきたい。「体系的に書かれた」という表現に沿っているかはともかく。
○ 棚次・山中『宗教学入門』
さて入門書である。と言っても教養市民向けではなく、あくまで研究者の卵向けの入門書だと言うことができるだろう。体系的と言えば、まあ体系的に書かれているとは言える。
まず第1章で「世界の諸宗教に関する基本的な知識をざっと得ておけ」と、「これは教養だ」から始まって(まあそれ自体、具体的な研究の展示会的な意味はあるが)、そしてそれが終わって第二章でやっと「宗教なるものを、どのように対象としてとるか、アプローチするか」「こんな方法論が為されてきた(という方法論総論)」という、学術としての宗教学という話になる。そして次に、第3章、4章で研究する時に使われる具体的着眼点・分析概念の個別解説。ラスト第五章から当たるべき文献紹介、文献への当たり方、と進む。
宗教学研究者(宗教研究者、ではない)というのは基本的に第2章以降の話は押さえた上で各個別宗教を対象として研究に入り、1章に書かれているような個別研究をものすのだが、実際のところ、そこの個別宗教という分野での分かれ方は学科レベルと言ってもいい。1章を読んだ時に雑多感を覚えるかもしれないがその辺が反映しているわけである。まあそこの雑多感は統一性のなさとしてよりも、入門書が踏み込まない個別分野の色が出ている部分として好意的に見てみるといいかもしれない。
○ キッペンベルク『宗教史の発見 ― 宗教学と近代』
タイトルはこうだが、「宗教史学分野」の1冊というわけではない。どちらかといえば宗教学史の本であり、「宗教なるもの」にいったいどのような関心のもとにどのようなアプローチが仕掛けられてきたのか、ということを示す本である。
近代なるものの裏側で、「非近代性の代表」扱いされがちな宗教に対して記述していくという行為が如何に行われてきたのか。宗教学がどう建設され、どのような状況下で今ある分析概念が作られたのか。というような話は、ただ分析概念に触れるだけでは現代の我々には分かりにくいものだ。宗教学という分野に入ろうとするならば、こういった話には是非触れておくべきだろう。
○ Segal "The Blackwell Companion to the Study of Religion"
一応海外の教科書的な本も挙げておく。英米の宗教研究者が集まって作った宗教学の入門書である。上述の宗教学入門で言えば、第2章以降がぐいと膨らまされた大部の本という感じか。まあ目次でも見るのが手っ取り早いだろう。
→ Table of Contents
2.宗教社会学の本
とりあえずは社会学の建設者にして宗教社会学の建設者でもある二人の古典でも読めという話だが、あと我々は日本人だからして、日本社会を対象とした宗教社会学的研究も一応提示しておいた。
○ ヴェーバー『宗教社会学論選』
○ デュルケム『デュルケーム宗教社会学論集』
これらが手に入らなくても、おそらく両者の全集はそこらの図書館にあるだろうから、その中の宗教関連の論文を読めばよいだろう。前者などは、当人が編んだ『宗教社会学論集』からの抜粋論文集だが、とりあえずはこれにも掲載されている「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を読むべき。基本中の基本であり、この論旨をどのレベルで受け入れるかはさておいても、宗教社会学というものが何をしたいのかというエッセンスを得ることができるはずである。
○ ベラー『徳川時代の宗教』
乱暴に言えば、「プロテスタンティズムの~」の論理を日本の近代化に適用してみたという話。日本は「非西洋では唯一、前近代からの自力で(=植民地支配下にではなく)近代化を成し遂げた」という文脈で取り沙汰されることが多いが、そこに発生する「何故」を、「日本的宗教性・倫理性」を基盤に考察した、というわけだ。
○ 伊藤・樫尾・弓山『スピリチュアリティの社会学 ― 現代世界の宗教性の探求』
現代社会特有の宗教性ということで「スピリチュアリティ」や「新霊性運動」というような言葉が使われるようになっているが(これら自体について勉強したい場合は、島薗進先生の本を当たること)、このスピリチュアリティとその基盤となる現代社会について書かれた本。正直、弓山先生が書いてるからこれでも挙げておくか、というノリで紹介しているが、オウムがどうこう新興宗教が云々という関心を持っている人は一度読んでみるといいかもしれない。
いずれにせよ、いわゆる古典的な教団宗教が衰微しているように見える中、こうした曖昧な宗教性と学問的に向かい合うというのは難しいものである。その試みの一つとしてこういう本を読んでおいて損はしない筈だ。
3.宗教同士の関係、時代背景、形而学をメタに哲学する本
とりあえず形而学なる言葉は携帯メールでの質問が故に起きた書き落としだろうということで、形而上学を意味しているのだと解釈したが、ともあれ言えることは、どのレベルの本が求められているのかよく分からないということである。まあ明らかに伝言ゲームのせいだとは思うが。
とりあえず、読点で区切られた要素はそれぞれ別個に見るべきなのか(それぞれ比較宗教研究、宗教史研究、宗教哲学とでも解すべきか?)、それとも総合すべきなのか(えーと、文明論的比較宗教思想史みたいな?)という問題があり、個人的には曖昧な意味で後者的なのだろうと思われたが、まあいつまでも質問解釈をしていてもしょうがない。もとより、どの話題もそれ1個で軽く叢書が量産できるのだし、そもそもどれか一つの話題について論じようという際に、他の話題に触れないことは困難なのだから。
というわけで、テキトーに当たりをつけて、何かしら参考になりそうな書籍を提示してみることにした。
○ 宮本・大貫・山本『聖書の言語を超えて ― ソクラテス・イエス・グノーシス』
○ 保坂『インド仏教はなぜ亡んだのか ― イスラム史料からの考察』
まず、宗教的文化同士の関係を扱い、かつメタ的・時代的・哲学的な視野を置かざるをえない分野として、ギリシア哲学/グノーシス文化/キリスト教という枠を扱った書籍を紹介しておく。哲学科の人間には親しげに感じられる分野なのではないかとも思われるので、ここではこの程度で終えておく。
後者は、文明論的な立ち位置からインド仏教の滅亡を扱った本である。インドが仏教の祖地であるのは多分誰もが知っていると思う。が、その衰退と滅亡自体はほとんど見向かれないトピックだと言える。なのでグノーシスだったら「まあいいよね?」で済むだろうところを具体的に触れるわけだが、伝統主義としてのバラモン/ヒンドゥー教に対して、仏教が一定の思想的役割を担い、政治的状況の変化に応じてその役割をイスラームが継承(もとい上書き)したという趣旨。なかなか面白く、上の本と同様、提示された3要素が絡まっている本と言える。しかし保坂先生には申し訳ないが文章力的な意味で「いい本」とはちょっと言い難く、「編集者仕事しろ」と言いたくなる(表紙もひどい)。まあ、ネタ自体は面白く、新鮮味もある。
○ オットー『聖なるもの ― 神的なものの観念における非合理的なもの、および合理的なものとそれとの関係について』
○ エリアーデ『聖と俗 ― 宗教的なるものの本質について』
次は一応「形而学をメタに哲学する本」分をカバーするという方向だが、宗教学の重要な基本概念の一つ「聖」を巡る2冊を。
オットーは「宗教なるもの」を、合理性では捉え切れない「聖なるもの/ヌミノーゼ」を本質として体系的に捉えようとした。デュルケーム・オットーらが使い出したこの「聖」概念は宗教学における極めて重要な分析概念となっており、彼のこの本『Das Heilige』は宗教学の基本文献の一つとなっている。まあ読んでおいて損はない。
後者だが、オットーの議論を受けてエリアーデが提出したのが「聖/俗」の二分法による世界理解であり、それを基盤に「宗教なるもの」を体系的に理解しようとしたのがこれになる(オットーが1968、エリアーデのこれが1969)。聖なるものが自ずから顕れることによって(ヒエロファニー)、人間の俗なる時空間・意味世界をどのように切り出し、聖なるそれとして区別させていくか。宗教的人間(ホモ・レリギオースス)がどのように世界を認識するか。また、これらの状況を、近代はどう覆い、またこれらが近代にどう埋め込まれているか。そんな内容である。宗教的な話に関心のある人の間で人気が高いようだ。
と、ここで注意しておきたいのだが、エリアーデのこの辺の語りはポスト・エリアーデの宗教学界隈では「あれ自体宗教じゃね」「根拠はなんだよ」みたいなノリで捨象されているところがある(アンチファシズム的な政治的色合いもあるので、日本だとそこまででもないが)。学術空間にも流行り廃りはある程度にとっておいた方がよいだろうが、まあ、学術をしようという人間ならば確かに、エリアーデの美しい語りの前ではちょっと身構えてみるのがいいかもしれない。宗教的な話に関心がある人間は思わず感銘を受けてしまうものらしい分、危うさを孕んでいるのだから ― とは言え、やはり1回読んでおいて損はない面白い本なのは間違いない。
○ エリアーデ『世界宗教史(1~4または1~8)』
○ 梅棹・中牧『宗教の比較文明学』
次は、そんなエリアーデからもう1冊(嘘。というか、本当は1冊の縮刷版が書かれる筈だったのだが、その前にエリアーデが亡くなってしまった)。エリアーデが、人類の信仰・宗教が貫く歴史全体を先史時代から現代まで一気に読ませ、宗教現象の統一性が理解されるように……と意図して書いたこの本が、宗教史という分野で最も偉大な書物の1冊に数えられるのは間違いないだろう。まあ、その分重たいが。
もう1冊は、宗教を通して様々に文明を比較してみよう、というシンポジウムの論文集。そういう性質であるので、体系的と言うよりは雑多な地域・時代を扱った様々な論文がまとまっている感じである。それも含めて、上の世界宗教史と対照的な気がしたので並べて提示してみた。ぶっちゃけて言えばついでに紹介してみたまでだが、宗教社会学的な意味でも興味深い1冊ではある。
初学者(と言うと失礼かもしれないが)向けの文献紹介という話なのに大部長くなった気がするので、この辺で締めておくことにしたい。宗教哲学的な分野については Study Hard の方でやってくれるものと期待している。中村元先生や井筒俊彦さん、その他京都学派の面々など、大いに紹介してくれることだろう。
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- [2009/08/22 06:16]
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